伊丹ユネスコ会報No.45 2006年1月発行

イタリア・アッシジの旅
眼下にウンブリア平野を望む
 私たちの乗ったバスが緑の美しいウンブリア平野を進んでいくと、前方に小高い丘が見えてくる。頂上あたりは霧に包まれている。さらに進んでいくと、やさしいピンク色の大理石の建物群がうっすらと見えてくる。アッシジの町である。
 町に入ってバスを降りる。石造りのゲートをくぐり、なだらかな石畳の坂道をのぼっていくと、突然、目の前が開ける。茶とピンクのストライプの広場が広がり、その彼方にフランチェスコ大聖堂が薄い霧をまとって建っている。大聖堂といっても、決して威圧的ではない。母鳥が大きな翼でひな鳥たちを包むようなやさしさが感じられる。
 ストライプの広場のまわりは、かつては巡礼者たちが休息をとるスペースとして利用されていた。アーチの列柱が美しい。
 大聖堂は、斜面を利用して上下に分かれている。富裕な商人の家に生まれながらも、すべての富を捨てて、「清貧」、「純潔」、「従順」の3つの教えに生き、今なお世界中の多くの人々から愛され続けている聖フランチェスコが、下の聖堂に眠っている。
 上の聖堂は、1997年に天井画の一部が地震で損傷し
フランチェスコ大聖堂
た。その傷跡が今もそのままなのが痛々しい。しかし壁面は、素晴らしいフレスコ画で覆われている。小鳥に話しかける聖フランチェスコの有名な絵もその一つだ。作者は、フィレンツェの鐘楼を設計したあのジオットである。慈愛に満ちた聖フランチェスコのまなざしに、心を洗われる思いがする。
 聖堂を出ると、霧の晴れてきた眼下のウンブリア平野は、息を飲む美しさだ。
 上の聖堂の前には芝生の庭があって、PAXという文字が植込みによって描かれている。平和を意味するラテン語だ。世界の平和、それは聖フランチェスコが強く求めたものであり、また私たちの変わらぬ願いにほかならない。
 このアッシジがユネスコ世界遺産に登録されたのは2000年のことだ。
(AM
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