No.199-2


   「言語と民族」−ネパールの歴史と現状−
 
ユネスコ文化講座
  講 師 鳥羽季義(とば すえよし)氏 ネパール国立トリブーバン大学客員教授 言語学者
  日 時 2003.6.17(火) 18:30〜20:00  場所 中目黒住区センター
 
初めにシニアボランティアとしてネパールに2年間赴任され、四月に帰国された平田副会長より鳥羽先生の紹介があった。鳥羽氏は、日本大学を卒業されアメリカ留学後、ネパールのトリブーバン大学大学院で30年以上ネパールの言語研究に従事され、昨年ユネスコネパール言語調査プロジェクト代表も勤められた。ネパール語に関する著書も多数おありになる。以下講演の内容である。
 
 『ナマステ。これはネパール及びインドの挨拶の言葉です。ナマステの一語で、今日は、今晩は、さようならが表わせる便利な言葉です。もともとはサンスクリット語からきた、「あなたを敬います。」という意味の言葉です。ネパールは、ルンビニという所にブッダが誕生されたということで日本とは縁の深い国です。またエベレスト登山でもよく名前を聞く国です。さらにネパール発展のため、日本は同国への世界第一の援助国でもあります。
 私がネパール語を研究しようと思ったのは、ネパールで医療活動をされていた岩村医師の1968年の講演で、ネパールには多数の言語があり、意思疎通が大変難しく、医療活動も思うにまかせないとの話を聞いたのが動機になっています。』
 
「多民族国家ネパール。多言語国家ネパール。」
 紀元前以来チベット、インド各所、モンゴルより各民族の流入があり、ネパールは、民族の坩堝(るつぼ)と呼ばれています。従ってネパールは言語の博物館というほど多数の言語があります。約33の言語や方言が
35の種族に話されていますが、大きく分けると4つの言語になります。普通にネパール語といわれるのは、インド・アーリア語系のもので政府は、これを普及させようとしていますが、国民の半数に通じる程度です。文法は主語、目的語、述語と日本語に似ていて日本人には比較的学び易い言葉かと思われます。他にチベット・ビルマ語系、ムンダ(南アジア)語系、ドラビディア(南インド)語系とあります。文字言語としては、デワナガリ文字(インド系)、チベット文字等4つあります。
ネパールの場合は、多言語というだけでなく、同じ言語でも山や谷で隔絶された生活を極めて長期間続けたため、隣り村の人同士でも言葉が通じないという言語の分離、変化の問題があります。
 今都市部では、出稼ぎ等に必要ということで、英語教育が盛んです。政府はネパール語普及のため全国各地に小さな学校を建てる等努力してきましたが、良い先生の確保が難しいなどの理由で必ずしもうまくいっていないのが現状です。ただこれではいけない、公用語としてのネパール語の普及とともに、母語(生まれ育ったところの部族語・文字のない場合もある)の保全・普及についても新たな取り組みが起きています。
 
 私達日本人も、橋を架ける、校舎を作るというだけでなく、現地・少数民族の人々が現地の言葉で読み、書きできるような教科書作りの手助けをするという、人々の心の架け橋作りに役立つような援助を推進する必要があると思います。
当日は、鳥羽先生と共に言語調査をされた奥様のイングリット夫人(ドイツ人)も見えられ、全く分からないところから始まる、現地での言語習得の苦労話も聞かせていただいた。また、鳥羽先生に通訳を願い、目黒ユネスコ日本語教室に参加されているネパール出身の女性アヌさんに、ネパール事情をネパール語で話して貰うという貴重な機会を得ることができた。
                       (研修活動委員会 中村 正)
写真はネパール国旗を説明する、鳥羽氏(左)と平田副会長


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