Short-News No.221-P1(2005.11.9)
次のページへ
shortnews
 

ユネスコ 文化多様性条約を採択

アメリカ的グローバリゼーションを世界は否定した
顧問・服部英二


第33回ユネスコ総会は10月20日、「文化的表現の多様性の保護と促進に関する条約(文化多様性条約)」を採択した。(賛成148票、棄権2票、反対は米国とイスラエルの2票)30か国の批准を得て3か月後に正式に発効する。この条約の意義について当協会顧問・服部英二氏に取材した。ユネスコ本部で開催されるシンポジウム「文化の多様性と通底の価値」(同氏企画)に出発直前の多忙なときにも拘わらず時間を割いてくださったことに感謝したい。

   ユネスコは1972年の世界遺産条約に始まり,2001年「文化多様性に関する世界宣言」、2003年「無形遺産保護条約」を成立させ、そして今回「文化的表現の多様性の保護と促進に関する条約(文化多様性条約)」の採択に至った。

この一連の動きの中で見逃してならないことは、「モノの文化からこころの文化へ」ということである。60年代アブシンベル大神殿を水没から救った当初、ユネスコの世界遺産に対する考えは「石の文化」とその真正性(authenticity)ということであった。京都、奈良等の木の文化財を指定するに際し、石の真正性のみから、形(form)の真正性の承認へと変化し、やがてそれは民族の精神を継承する無形文化財保護へと進んでいく。アジア・アフリカ諸国がこれを熱烈に支持し、ヨーロッパ中心であった世界遺産保護の思想が変容をとげ、内容的にも地域的にも拡がった。根底にあるのは精神文化の多様性の保護と促進である。

 多様性の重要さについては、95年国連大学(東京)で行われたユネスコ創立50周年記念セミナーでのジャック・イヴ・クストーの証言が基になっている。彼は種(species)の数が多いところではエコシステム(生態系)は強い。しかし南極のように種の数が少ない所ではエコシステムは弱い(fragile)。そしてこの法則はそのまま文化にも当てはまると述べた。単一文化になってしまうとこれは脆い。文化の多様性を失うと人類は滅びる。これが2001年の「文化多様性に関する世界宣言」の第一条に盛り込まれることとなった。そして今回の条約の冒頭には「文化的な多様性が人類の決定的な特徴であると断言する」と力強く引き継がれた。

アメリカがユネスコへの復帰を決意したのはこの2001年の「宣言」採択の直後で、直ちに「文化多様性条約起案専門委員会」にWTOのアメリカ代表を送り込み、表現の自由の確保と市場原理の主張を繰り返した。一例であるが現在ヨーローッパのテレビ映画の70%はアメリカ映画で、これには約60億人のマーケットがある。黒澤明監督が映画制作の際、約1億人の日本人が見る事を前提とした制作費しか使えなかったことを考えると60億人を対象とした映画制作費が使えるアメリカに並ぶことは容易ではない。ブルドーザーのように世界の文化を踏み潰す市場原理、自由競争の徹底にヨーロッバ・アジア・アフリカの人々が結束して対処したのが今回の条約採択の舞台裏であった。

平和を愛する内なる精神文化の世界を市場原理に委せてはならないと、圧倒的多数の世界の人々が結束したことになる。モノからこころへの転換は日本人である松浦事務局長の最大の貢献であるといえよう。今後アメリカも又、この世界の心の流れに誠実に対応することを望みたい。 (10月31日 服部氏談:文責・奥澤行雄)
 
 
 (注)
*1 「石の真正性」
エーゲ海に浮かぶクレタ島のクノッソス宮殿が世界遺産に登録出来なかった理由は、崩壊した宮殿の一室がコンクリートで修復されてしまったためであった。世界遺産が本物であること(真正性)が非常に重要な条件であるためである。

*2 「木造建築と世界遺産」
法隆寺に例をとると、火災で焼失したり経年変化で修理や建て替えが繰り返されてきたので、アブシンベル大神殿以来の石造中心の概念からは世界遺産に該当しなかった。しかし、形(form)が完全に復元されていることを条件に、木造の文化財も該当するように基準が変化した。

*3 WTO(世界貿易機関)は、GATT(関税と貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンドにおける合意に基づき、1995年1月に発足したもので世界貿易促進を目的としており、文化の多様性条約とは一見かかわりがないように見える。しかしアメリカがユネスコに復帰した直後、WTOの委員自らこの「文化多様性条約案」作成委員会に参加し反対を繰り返し続けた。提出した反対提案は相当な数にのぼる。世界を席巻するアメリカの映画産業の後ろには、農業(小麦・牛肉・飼料)、鉱業(原油)、コンピュータ産業、環境(京都議定書)、軍事産業(武器・軍事力・反テロ戦略)等々、アメリカの経済力を背景とする自国の国益を最優先する姿勢が見え、ユネスコの良心がこれを拒否したことを表している。

(この注は服部氏のお話のほか、多数の方々のご意見を広報活動委員会がまとめました)
 
-----------------------------------目  次-----------------------------------
◎ユネスコ 文化多様性条約を採択・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
page1
◎バザー 心惹かれる秋の便り・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎区民祭り「SUNまつり」出店参加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎ユネスコ活動研究会inひたちなか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎いよいよユネスコ平和コンサート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎日・英広報委員懇親会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◎お知らせと予定/編集後記・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ページのトップへ

 
次のページへ