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「トモダチ作戦」とプルトニウム

表題のふたつの言葉は、2018年6月に原子力関連で政府が発表した政策のキーワードです。
今後の原子力政策を左右する内容を含みます。

友情のツケは10億ドル?

「トモダチ作戦」は2011年3月11日の東日本大震災直後、日本政府の要請で、米国国防総省が、第7艦隊「ロナルド・レーガン」を主軸とする艦艇を三陸地方沿海に派遣し展開された救援作戦。2ヵ月間実施された。2012年12月、元乗組員8人が、放射線被曝により健康被害を被ったとして、日本政府と東電を訴え損害賠償を請求。東電側弁護人は日本での裁判を強く主張したが、2017年6月、米連邦控裁は、これを退ける決定を下した。控訴内容は東電は炉心融解の事実、放出された放射能情報等、を通告しなかったとして、損害賠償金1千万ドル、懲罰的賠償金3千万ドル、医療費基金 1億ドル(その後、10億ドルに)を請求するというもの。2017年12月、原告団は400人以上に増え、元乗組員の死亡者は9人になったとの事。弁護団は開廷希望日を2019年5月と指定。開廷までには証拠開示制度によって和解に至るようにしたいとしている。和解とは司法取引の事で、米国の裁判では一般的で、捜査協力と引き換えに減刑を受ける制度。2018年6月1日、日本政府は日本でも司法取引を導入する旨の発表を行った。タイミングとしては、米国での裁判と司法取引に対応するためとみるのが自然だと思います。

原爆6千発分のPuの行方は?

もうひとつのキーワード「プルトニウム」(以下、Puと略す)はウラン(以下Uと略す)同様に核分裂性原子です。共に原爆と原発に切っても切れない関係にあります。Uは広島型原爆、Puは長崎型原爆の原料。Uを核燃料に使う原発では、その使用済み核燃料の再処理でPuを抽出できる。高速増殖炉(廃炉が決定した「もんじゅ」は、その原型炉)では、UとPuを併用する事で、Puを生成増殖できる。米ソ冷戦時代、Puはミサイル用核弾頭を小型化する為とUの埋蔵量枯渇に備える為に、軍事上非常に重視された。Puを確保する為、1953年、米アイゼンハワ―大統領は「平和のための原子力」と題する演説をし、原子力発電普及に必要な核物質や技術の積極的輸出を開始した。日本はこれに呼応し、1958年「日米原子力協定」を締結。使用済核燃料全量を再処理することを国是とし、Puを準国産エネルギー源に位置づけた。再処理工場は1981年東海村に小規模設備が操業、1991年青森県六ヶ所村で年間処理能力八百トンを目論んだが、幾多の技術的難問題が発生し操業開始の時期は未定である。現在、日本は47トンのPuを保有しているが、そのほとんどがまだ再処理委託をした英仏にある。原爆6千発分の量といわれている。冷戦はソ連邦の崩壊で終わり、U 埋蔵量は充分にあることが判明し、Puの必要性は急激に減少した。米国とソ連圏での原発事故(1979年と1986年)があり、2011年東日本大震災による福島第一原発の事故後は、世界の流れが、原発からの撤退(再生エネルギー及び新エネルギーの開発普及と裏表)、原発の廃炉をめざす方向に変わり始めた。地震多発国の日本での「原発震災」は、いつでも起る恐れがあり、廃炉使用済み核燃料の最終処分に多くの年数と巨額の費用を要することも明白となり、汚染された環境の再生復興は容易ならざることも判明している。

なぜ日本は原発再稼働するのか?

2018年6月半ば、原子力委員会はPuの利用指針を改定し、保有量の削減を明記すると発表した。具体策として、福島原発事故後、再稼働した原発をもつ電力会社に再稼働が遅れている他社がPuを譲渡等して消費を促すとしている。また、安全審査中の六ヶ所村再処理工場では、稼働する原発で消費できる分しか再処理させないとしている。これで、日本がPuを多量に保持している事を問題視している米国等が納得するとは思えない。2018年は「日米原子力協定」改定更新の年であったが、1月早々に自動延長された。日本は既存原発の再稼働を進め、それもPuとU併用のMOX燃料を使うプルサーマル式原子炉を増やし、かつPu専用の原発(青森県大間に建設中)を完成させ、同型炉を増設するしかない。U専用の原子炉からの使用済み核燃料の全量再処理方針を不変とするならば、MOX燃料の使用済分は再処理しないとでもしない限り、Puの減量は進まない。使用済燃料は現在プールで冷却保管されているが、全電源喪失の事態が起こると溶融・爆発する。空冷式キャスクの採用が急務ではないか。
(渡部研自)


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