機関誌「ユネスコ」 2021年1月号
特集 世界遺産『アンコール』バイヨン寺院
ナーガ像・シンハ像修復プロジェクト終了
カンボジアの世界遺産『アンコール』遺跡群のひとつ、バイヨン寺院。日本ユネスコ協会連盟では、寺院の外回廊(第一回廊)にあるナーガ(蛇)像と欄干、シンハ(獅子)像の修復、そして、現地の修復技能者の育成を2012年から実施してきた。多くの方々のご支援のもと、このプロジェクトがついに完了した。
(事業部:宍戸 亮子)
散乱していた遺跡を元の位置に、オリジナルの部材で
9世紀以来、カンボジアのアンコール王朝によって築かれた『アンコール』遺跡群。15世紀に王朝が滅びてから、数世紀にわたってジャングルに取り残されたままだった。フランス植民地時代の1860年に遺跡が「発見」されて以降、修復・研究が進められた。しかし、独立闘争に続いて内戦状態となり、長い不遇の歴史を辿ってきた。その間、全体的に破損と劣化が進み、修復に携わる人材・技術が不足しているなど、世界遺産となってからも維持・保全の上で課題が山積していた。

修復前(写真左)は、ほぼすべての欄干やナーガ像の部材が崩落し、周囲に散乱していた。本プロジェクトにより、このエリアの欄干部材はほぼすべて元の位置が特定され、オリジナル部材で修復することができ、景観的にも大きく改善された(写真右)。
ナーガ像73体、シンハ像23体など修復
世界遺産は、遺跡の形状や材料などのオリジナリティを尊重する「オーセンティシティ(真正性または真実性)」が重要であると定められている。破損して崩落・散乱したまま放置された各彫像の修復にあたっては、日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JASA)の方針に従い、可能な限りオリジナル部材を生かし、遺失部の復元ではなく、これ以上の劣化・崩落を防ぐために必要な箇所への補強を行い、原位置に戻す方針がとられた。また、研究で解明された伝統的な建築技術を継承することも重視された。地元技能員たちの手で修復された総数は、ナーガ像73体、シンハ像23体、欄干の部材721部材にのぼる。
