未来遺産運動futureheritageitem

未来遺産運動ニュース増刊号 ~戦後80年。平和な世界を目指す活動~

2025.10.17

広島の被爆体験を樹木を通じて伝えるグリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ/
Green Legacy Hiroshima(GLH)の活動(2014年に「プロジェクト未来遺産」に登録)を紹介します。

焼け野原から芽吹いた樹々たちが、人びとに希望を与えた

爆心地から2キロ以内にある54か所159本の樹木は、広島市によって「被爆樹木」として認定されています。広島に投下された原子爆弾により、広島市の中心部は放射能の砂漠と化し、75年間は草木も育たないと考えられていました。しかし、わずか数か月後、被爆した木々から新しい芽吹きが見られ、広島の人たちに生きる希望を与えました。

被爆樹木は、原爆の熱線で焼けてしまった場所を包み込むように新しい幹が再生したものや、ケロイド状になった場所から芽が出て成長し続けているものなど、被爆時の傷や後遺症が目に見える形で残っており、当時の記憶を伝える証言者です。

爆心地から990mで被爆したクスノキの幹

爆心地から990mで被爆したクスノキの幹

世界中に被爆樹木の種を届けるGLH
1000年先へ、平和のメッセージを伝えることを目指して

GLHは、2011年設立以降、被爆樹木の種を無償で世界中の植物公園や大学、学校、その他象徴的な場所等に届け、平和のメッセージを伝える活動を行っています。これまで41か国・150以上のパートナーに届け、各地で平和・希望のシンボルとして大切に育てられています。

本活動を開始した、GLH共同代表で、広島に事務所がある国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所の初代所長をかつて務めたナスリーン・アジミ氏にお話を伺いました。

Q:活動を開始した当時について教えてください。

「私は広島に来てすぐに、被爆樹木と出会ったわけではなかったです。当時は被爆樹木の看板も小さかったし、『この樹が被爆樹木だ』と知っている人もまだ少なかった。世界中から訪れた国連ユニタールの研修生たちが母国に帰る時、「広島の被爆体験をどうやって自分たちの国で伝えたらよいのか、広島のために何かできることはないか」と聞かれても何も答えられませんでした。

しかし、「被爆樹木」の存在を知って、「これだ!」と感じました。人間よりも長く、100年、1000年と生き続ける樹と広島への想いを合わせて、世界中に被爆樹木の種とメッセージを届ける活動をボランティアで始めました。元々自然や環境の分野に強く関心がありましたし、共同創設者の渡部朋子さん、樹木医の堀口力さん、そしても私も、樹が大好きだったので。戦後の大変な状況で広島市が被爆樹木のリストを作っていたのは、本当に勇気のあることですし、先見の明がある判断だったと思っています。」

Q:そこから14年間、活動を続けられている中で、さまざまなパートナーと協力して活動していくことや、生育環境の違いなど、難しいと感じられることはありますか。

「被爆樹木の種は、植物園や樹木医などの協力を得られる団体・機関にお渡ししています。防疫の観点から、苗の状態で直接送ることは厳しい状況です。種の状態から日本の植物を海外で育てるわけですから、寒かったり、暑かったり、色々な難しさがあります。なので、お渡しした先では、種は植えるまでに少なくとも2~3年はグリーンハウスの中で育てて、強い苗にして植えてもらう場合もあります。送った被爆樹木の種について、『この種は宝物だね』とうれしい言葉をもらうこともありますね。専門家がしっかりと種・苗のケアを行い、その国で根を張り、100年、1000年と、広島のメッセージを伝え続けていきます。」

Q:最後に、被爆樹木への思いや、今後の展望について教えてください。

「原爆ドームはpeace memorialとして世界遺産に登録されていますが、被爆樹木は被爆体験と同時に、戦後の復興から現在も成長し、市民とともに共生している遺産です。

戦後80年が経ち、年々被爆者が減少する中、被爆樹木の存在は非常に重要です。被爆樹木が生き物であり命のシンボルであることは大きな意味があると思っています。GLHの目標は、国連加盟国193か国全ての国に届け、核兵器の脅威のない世界を実現させることです。」

ユニタール広島事務所でGLHの活動を行うスタッフの方々

ユニタール広島事務所でGLHの活動を行うスタッフの方々。
左からソフィー・チャノ、アジミ氏、菊地真理子。

世界中へ、そして1000年先を目指して平和のメッセージを届けたいと力強く語るアジミさん。今年5月には、原爆投下と国連創設の80年にあわせて、ニューヨークの国連本部に被爆樹木の苗木が植えられ、広島の平和への願いは多くの人の心に届けられています。

国連本部に植えた苗は、広島の平和大通り沿いの被爆樹木の柿の木の種を、GLHパートナーのサンディエゴ植物公園が苗木になるまで大切に育て、輸送した。左が視察に訪れたアジミ氏、右が同植物園のJoe DeWolf氏

ニューヨーク国連本部での植樹式の様子。左がGLHの島津準子氏。右が、日本国憲法の平等権条項の草案作成に関わったBeate Sirota Gordon氏の娘である、ニューヨーク大学教授 Nicole Gordon氏

(写真提供:GLH)


未来遺産運動では、多くの方々に身近な地域や全国各地の「プロジェクト未来遺産」に関心を持っていただくことで、地域を超えた新たなつながりを生み出し、全国に応援の輪が広がることを目指しています。

活動を支える・参加するParticipation to support

私たちの活動には、多くの方々にさまざまなかたちでご協力・ご支援をいただいています。
わたしたちの想いに共感してくださる方を、心よりお待ちしております。ひとりひとりの力を未来の力に。

mail magazine